第25章 医者がいない島
医者がいない…?
そんなことってあるのか。
店主の言葉に耳を疑った。
「そりゃァ、どういうことだ。」
ローも気になったのだろう、店主に詳しく説明を求めた。
それもそのはず。
普通、どんなに過疎化した町であっても、薬屋、もしくは病院は必ずあるものだ。
ましてや、酒場があるのに病院がないなど、そんなことがあるのか。
「信じられねぇかもしれないが、それがこの国なんだよ。」
店主は諦めたように息を吐いた。
“医者”と名乗る人間は国王のもとにしかいない。
どうしても診て欲しいのなら、莫大な金を払い国王に請い、何日も順番待ちをしなければならない。
国民たちは、それを“悪魔に魂を売る”と称した。
だからみんな、命に関わることでない限り、自力でなんとかしようと試みる。
「そ、そんな…。」
そんなのおかしい。
医者の力を国王が独り占め?
いったいなんのために…。
「…なるほどな。それでお前たちはどんなにクズな国王であっても、従うしかねェってことか。」
「……。」
図星なのか店主は押し黙った。
「くだらねェ。」
「…あんた達にはそう思えるかもしれないな。」
店主は諦めたように笑った。
「…あの、わたし--」
ガ…ッ
薬剤師です。
そう名乗ろうとしたモモの肩をローが強く掴んだ。
「……!?」
なぜ止めるのかわからず、ローを見つめた。
「わかった、仕事中に引き止めて悪かったな。」
「いやいや、ごゆっくり。」
そう言って店主は他のテーブルに呼ばれていった。
「…この島で俺やお前が、医者や薬剤師であることを口に出すな。」
店主が離れてから、ローは口を開いた。
「…! …どうして?」
言っていることが理解できない。
「都合が悪いからだ。町の連中に知れてみろ、治療に飢えた住民どもが押し寄せるぞ。」
「だから黙っていろというの…!?」
「それだけじゃねェ。国王は医療を盾に政治の統制をとっている。俺たちが医者であることがバレれば、ヤツらに目を付けられる。」
それはそうかもしれない。
だけど…!