第25章 医者がいない島
「もう少しでココアウィードって町に着くよ。」
ベポの案内で一行は慣れない雪道を歩く。
「うう…、さっみィ…。早く室内に入りてぇなぁ。」
「確かに、想像以上の寒さね。これならバナナで釘も打てるかも。」
「え? 雪国にバナナってあるんスかね。」
そういうことじゃないのだけど。
ペンギンの空気が読めない発言にも、突っ込む気力がない。
「…モモ、大丈夫?」
ベポが気遣わしげにこちらを見た。
きっと体調面を心配しているのだ。
「大丈夫よ。」
本当はまだ熱っぽさが残り、元気いっぱいとは言い難いけど、あれから少し眠れるようになって、だいぶマシになったのは本当のこと。
「おんぶしてあげようか。」
ほら、と背中を差し出してくる。
「ふふ、大丈夫ったら。…じゃあ、手だけ繋いで?」
白いフワフワの手を握った。
肉球がぷにぷにしていて気持ちいい。
「あーあ、船長。ベポに取られましたね。」
ベポがモモに声を掛けるほんの少し前、ローがモモの手を握ろうと近づいていたのをシャチは見逃さなかった。
行き場のない手がかわいそう。
「…うるせェ、バラすぞ。」
「ヘイヘイ。」
恥ずかしいのかギロリと睨まれ、肩を竦めた。
ベポに手を引かれたまま、モモはチラリと森を見た。
(深い森ね。雪国にしか生息していない植物がたくさんありそう。)
頭の中に知らないはずの知識がぐつぐつと湧いてくる。
世界樹・ユグドラシルの知恵だ。
この知恵とローからもらった植物図鑑。
これらのおかげでモモの薬剤師としての力はめきめきと上がった。
(せっかくの雪国だもの、いろいろと調達できるものがありそうね。)
町に着いたら、まず薬屋に行こう。
モモは楽しみに歩みを進めた。