第25章 医者がいない島
島の森へと続く河口を通り、海賊船は国内に停泊した。
「よっと…。モモ、滑るから気をつけろよー。」
「うん…! っと、とと…、わ…ッ!」
シャチの忠告もなんのその。
ツルリ足を滑らせた。
ガシ…!
「ったく、お前は本当に期待を裏切らねェな…。」
後から降りてきたローがモモを支える。
「わ…わぁ! すごい、地面がふかふか!」
サラサラの雪が積もり、足元が埋まる。
「話を聞け…ハァ…。もういい。」
この調子では小言を言っても無駄と判断し、早々に諦めた。
島にいる間、彼女はあと何回ひっくり返るだろうか。
首輪とリードでも付けておきたい。
そんな危ないことを本気で考えたとき、ボスンと胸になにかが当たった。
パラパラと粉雪が落ちる。
「あははは!」
笑い声の先を見れば、モモが満面の笑みで雪玉を作っている。
「えい…!」
可愛いらしい声と共に、雪玉がもうひとつ飛んできた。
「ハァ…。」
“タクト”
クイッと指を回すと雪玉は方向を変え、シャチの顔面に命中した。
「ぶふ…ッ」とシャチが喘ぐ。
「あー、ズルい。」
能力を使ってしまわれたら、もう当てられない。
「バカやってんじゃねェよ。」
まったく、子供じゃないんだから。
「オイ、ベポ。町はどっちだ…--」
振り返ってみて、言葉を失う。
久しぶりの雪にはしゃいでいたのはモモだけではなく、我が船の航海士は故郷を思い出したのか、雪に埋もれワタワタと転がっていた。
オレンジのツナギを来ていなければ、野生の白クマそのもの。
「行くぞ、バカ共が…。」
ベポの頭にゲンコツが飛んだ。