第25章 医者がいない島
「もっと頼れって言ってんだよ。」
「え…?」
「お前はなんでもひとりで抱え込み過ぎだ。もっと周りを使えよ。」
そんなことはない。
今日だって、洗濯物の取り込みをペンギンにやってもらったし、船の整備や航路のことなんかみんなに任せっきりだ。
「もう十分、頼ってるわ。」
「なら、その倍頼れ。」
あっさり言われ、これには目を丸くするしかない。
それは甘すぎというものではないか。
「これは俺だけの意見じゃない。アイツらも同じ気持ちだ。」
暗に、俺が甘いんじゃないと伝えられる。
「お前はずっとひとりで生きてきたから、どこまで頼ったらいいか線引きがわからねェのも理解できる。」
ひとりでいた頃は、なにもかも自分でやらければならなかった。
頼れる人もいない。
だからモモはそのへんが麻痺しているのだと、ローたちはわかっていた。
「男ってのは、頼られてェ生き物なんだよ。だから俺たちのために、もう少し頼れ。」
わかったな? と優しく頭を撫でられれば、なんだか自分がワガママを言っていたようで恥ずかしくなる。
モモは素直に頷いた。
「良い子だ…。」
柔らかい眼差しに堪らず俯き、誤魔化すようにおにぎりへ手を伸ばした。
三角とも丸とも言えないおにぎりは、塩加減がおかしくて、かじる場所によって塩辛かったり味がしなかったりした。
そのアンバランスさがおかしくて、思わず笑ってしまう。
「言っておくが、作ったのは俺じゃねェぞ。俺はもっと上手い。」
「ロー、料理できるの?」
それは意外。
「ナメんなよ。コラさんと旅をしてたときは、俺が毎日作ってた。あの人はなんにもできなかったからな。」
下手に任せようものなら、持ち前のドジッ子でとんでもないことになる。
懐かしさで目を細めた。
少し前の自分なら、こんなふうに彼のことを誰かに話せるとは夢にも思わなかった。
「ふふ、そこまで言うなら、今度ローの手料理もごちそうしてね?」
「…そのうちな。」
でも、モモがローの手料理を食べられる日は来なかった。