第25章 医者がいない島
「ん…。」
ひどく懐かしい夢を見た。
あれはモモが薬剤師になろうと決めた日のこと。
あの日から、もう何年経っただろうか。
わたしは、母のような薬剤師になれているかな…。
コロリと寝返りをうった。
するとその拍子に、近くにあったなにかに顔をぶつけてしまう。
「…起きたのか?」
すぐ近くでローの声がする。
「え…。」
寝ぼけた頭を回し視線だけ上げると、ローの優しげな目があった。
今顔をぶつけたのは、ローだったみたい。
(あれ…、わたし…どうしたんだっけ?)
飲み込めない状況に記憶を手繰り寄せると、自分が医務室で眠ってしまったことを思い出した。
でも、ここはどうみたって自分とローの部屋だ。
「医務室で寝こけてるお前を運んできたんだよ。」
頭に浮かんだ疑問を、ローはお見通しみたいに答えた。
「え…、ありがとう。わたし、どのくらい寝てた?」
身体を起こしてふと窓の外を見ると、すでにとっぷりと日は暮れ、夜の帳が落ちていた。
「やだ…! もう夜!? 夕飯の支度してない…ッ」
慌ててベッドを下りようとするモモの肩をローが押し戻した。
「落ち着け…。残念だが、もう夜メシの時間は過ぎた。」
「え…!」
ショックを受けて時計を見ると、時刻はまもなく日付が変わることを指し示していた。
やってしまった…。
「そんな顔をすんじゃねェよ。」
あからさまに落ち込むモモの額を小突き、傍らのサイドテーブルを引き寄せた。
そこには不格好なおにぎりが2つお皿に乗っかっている。
「……?」
「夜メシだ、食え。」
驚いてローの顔をまじまじと見る。
「ガキじゃねェんだから、お前がいなくてもメシの支度くらいできるさ。」
「……。」
なんだか、自分がいなくても大丈夫って言われたみたいで、ちょっとだけしょんぼりする。
「なんでそうなる…。違ェだろ。」
これまた頭の中を見透かしたみたいに苦笑された。