第25章 医者がいない島
「そんなことないわ。お母さんはね、お医者さんより薬剤師の方がすごいと思うの。」
「どうして?」
膝の上で首を傾げるモモの頭を、母は優しく撫でた。
「例えば病気の人がいたとするわ。でも、お医者さんはその場にいなければ治療することができない。」
その通りだ。
だから、みんな病院へ行く。
モモはうんうんと頷いた。
「でも、薬剤師ならその場にいなくてもいいの。だって、お薬が代わりに治してくれるんだもの。」
こんなときはこの薬を飲んだらいい。
それだけ知っていれば、いついかなるときも“治療”ができるのだ。
「もし、流行病でたくさんの人が倒れてしまったらどうする? お医者さんひとりで、みんなを助けられるかしら。」
手が行き届かず、命を落とす人がいるかもしれない。
「でも、たくさんの薬があれば、助かる命が増えるかもしれない。」
だから母は常日頃から、たくさんの薬を作る。
「お母さんはね、誰かが病気になったとき、お医者さんがいなくても病気が治せるから薬剤師になったのよ。」
より多くの人を助けられるようにと。
母の言うことは、まるで魔法のように聞こえた。
「すごい…! 薬剤師、すごいね!」
「あ、もちろん、お医者さんもすごいのよ?」
これはあくまで持論だ。
モモに誤解を与えないように訂正するけど、ちょっと遅かったみたい。
「わたし、薬剤師になる!」
モモはキラキラした瞳で母を見上げる。
「それで、みんなを助けてあげるの!」
「別にお医者さんになってもいいのよ?」
「ううん、薬剤師がいい!」
薬剤師になると言って聞かない娘に、母は苦笑しながらもどこか嬉しそうだった。
「じゃあ、明日からモモもお仕事を手伝ってくれる?」
母の提案にモモは「うん!」と力強く頷いたのだ。