第25章 医者がいない島
そんな心のキズから、モモは軽い不眠症に陥っていた。
いつも腕に抱いてやると、びっくりするほどすぐに寝つくのに、最近は思い悩むようにローに身体を寄せるだけだ。
しかし、それを気づかれたくないのだろう。
必死に寝たふりをするので、ローも気がつかないふりをしている。
そうなると、今度はモモの身体が心配になってくる。
何度か睡眠薬を盛ってやろうと考えもしたが、薬を生業としている彼女は、どんなに少量の薬でも、匂いが薄い薬でも、簡単に見抜いてしまう。
自分もモモのように、誰かを眠りへ誘う歌でも唄えれば良かったのに。
そんなバカなことを考えてしまうくらい、モモのことが心配だった。
だから昼寝とはいえ、安心したように眠る彼女に胸をなで下ろし、起こさないように静かに自室へと運んだ。
「お前に元気がないと、俺も落ち着かねェんだよ。」
「おかあさんは、どうしてお医者さんにならなかったの?」
幼い自分がそう尋ねると、母はえっ?と目を見開いた。
だって、母はすごいんだ。
顔色ひとつでその人の病名がわかってしまうし、傷口だって綺麗に縫うことができた。
それなのに、母は自分を薬剤師だと言う。
「おかあさんはすごいんだから、お医者さんになればよかったのに。」
「あら、モモは薬剤師よりお医者さんの方がすごいと思うのね。」
「だって、お医者さんはエライんでしょ?」
町のみんなはそう言う。
偉いお医者様に診てもらうことができないから、母のところへ来るのだと。
それは医者にかかる金がない、という意味合いも含まれているのだが、モモは言葉通り、医者は薬剤師より偉いのだと理解した。