第25章 医者がいない島
自室で本を読んでいたローは、だんだん集中できなくなり、イライラしてきた。
原因は…、そう。
モモがいつまで経っても戻ってこないから。
少しの間ならいい。
クルー同士のコミュニケーションも大切だと思う。
でも、こう何時間も自分の傍を離れていると、気になって仕方がないのだ。
ローは本を読むのを諦め、パタンと閉じると立ち上がった。
デッキに出ると肌寒い風が吹き、ローの頬を撫でた。
冬島が近いのだろう、ここ最近で急に気温が下がってきている。
しかしこの気候はひとりのクルーにとって、非常に心地良いようで…。
ローは大きな身体を看板に転がし、うるさいイビキを掻いて昼寝を貪るクマを見下ろす。
仕事をしろ、航海士。
鞘に収まった愛刀の先で、大きな腹をドスドスとつつく。
「ん…んぁ、なぁに…キャプテン。」
「モモはどこだ。」
ベポとモモは互いに親友だと認めており、彼女が自分の傍にいないときは、だいたいベポと一緒にいる。
「んー…、あれぇ。さっき船内に戻ったはずだけど。」
ふわふわの手が眠たい目をゴシゴシと擦る。
「船内に? キッチンにもいねェし、見当たらないが。」
「あ…、じゃあ医務室じゃない? だって、モモ…--」
風邪を引いていたし。
思わずそう言ってしまいそうだった口を、ハッとして噤んだ。
「だって…なんだよ。」
ローの目が、訝しげにベポを捉える。
「ん…、えっと…。あ…! ほら、薬剤師だし!」
良い言い訳を思いついたとばかりに、ベポはビシリと指を突き立てる。
「医務室か…。」
どことなく挙動不審なベポに首を傾げつつも、ローは納得して呟いた。
確かに医務室は覗いてなかった。
「たまには仕事しろよ、航海士。」
昼寝が趣味の航海士に一言添えると、ローは医務室に向かう。
「仕事ができないクマで、スミマセン…。」
ガックリ膝をつく白クマは放っておいた。