第25章 医者がいない島
「あーあ…。」
ふわりとシーツを広げながら、モモはため息を吐いた。
まさか風邪薬がペンギンに飲まれていたとは。
「調合し直さないとな。」
そう呟いたところで、それは無理だと思い出した。
今、モモの手元に材料がないのだ。
本当はウォーターセブンで買いつけるはずだったのに、あんな事件があってすっかり忘れてしまっていた。
次の島では必ず調達しないと。
身体とは素直なもので、薬が飲めないとわかった瞬間に、体調が悪化する。
全身をだるさが襲い、たった今シーツを敷き直したばかりのベッドにモモは身体を沈めた。
(…悪いタイミングって、重なるのね。)
自分が珍しく体調を崩したのは、なにも気候の変化のせいだけではないと思う。
モモには心当たりがあった。
それは数週間前のこと。
定期契約をしている郵便カモメが、いつものように新聞を運んできた。
新聞は海の上で貴重な情報源だ。
当然、モモも目を通している。
その日、届いた新聞を何気なく開いてみると、一面にこんな記事が堂々と掲載されていた。
“死の外科医”トラファルガー・ロー。
巡回中の海軍の船を沈め、罪なき海兵たちの命をいたずらに奪った。
政府は上記の人物の危険性を重く見て、懸賞金の吊り上げを決定した。
懸賞金は、1億ベリー。
その記事を読んだとき、モモは心の中で「嘘つき!」と叫ぶのを止められなかった。
なにが巡回中なものか。
彼らが自分にしたことは、絶対に忘れない。
それに、ローはひとりだって海兵を殺してないのに。
この記事が、懸賞金が、なにを指し示すのかモモにはわかる。
わたしがいるからだ。
ホワイトリストの手配者である自分が、ハートの海賊団にいることがついに海軍に知れた。
そしてローがわたしをどう思っているかも、きっと知れてしまったのだろう。
自分が“Sランク”である事実が、ローの懸賞金を上げてしまったのだ。