第25章 医者がいない島
船内に入ったモモは、しかし自室に行くのではなく、医務室へと足を向けた。
ガチャリ。
(よかった、ローはいないわね。)
きっと自室で本でも読んでいるのだろう。
モモはホッと息をついて中へ入った。
いつも消毒液の香りがする医務室。
この船に拾われたとき、モモはしばらくこの部屋で寝起きしていた。
あの頃が懐かしい…。
綺麗に整理整頓された薬棚を開け、目的のものを探す。
「ん…あれ……?」
おかしいな、見当たらない。
確かにここに、以前調合した風邪薬を入れておいたのに。
風邪は引きはじめが肝心。
早いうちに薬を飲んでおこうと思ったのに。
はて? と首を傾げていると、後ろで医務室のドアが開いた。
「あれ、モモ。なにしてんの?」
ローかと思って一瞬どぎまぎしたけど、入ってきたのはペンギンだった。
「ん…、ちょっとね。ペンギンはどうしたの?」
「ベッドのシーツが乾いたから、持ってきたッス。」
ほら、と洗濯を終えたばかりのシーツを見せる。
「なんだ、そのくらい わたしがやるわ。ありがとう。」
炊事洗濯はモモの仕事。
まだ太陽の温かみが残るシーツを受け取った。
「別にいいのに…。モモはなんでもひとりでやりすぎなんスよ。」
家事にしたって、もっとみんなを頼ってくれていいのに。
ただでさえ、モモは薬剤師として十分な働きをこの船でしている。
戦闘員の自分とは大違いだ。
ふと開きっぱなしになっていた薬棚に目を向ける。
「モモ、もしかしてなんか薬探してた?」
「え…ッ、どうして?」
図星を突かれ、ギクリとする。
「んー、いや…。実は俺、この前 勝手にそこ漁っちゃったから、大丈夫かなと思って。」
「そうなの?」
「悪い、船長にバレたら怒られるかなーって思ったから黙ってたんス。」