第1章 唄う少女
モモは家へと続く坂道を駆け上がる中、異変を感じていた。
(あっちのそら、あかい…。)
夕暮れ時でもないのに、家の方角の空だけが真っ赤に染まっていた。
家に近づくにつれ、異臭が鼻をつき、空が赤い理由を知った。
家が、燃えている…。
「おかあさん!おとうさん!」
その叫び声に、家を取り囲んでいた男たちがこちらを向いた。
「いたぞ!あのガキだ!」
「ひっ…ッ」
刃物や銃を持った男たちがこちらへやって来る。
(こないで…ッ)
ダァン!
モモの想いに応えるように銃声が響いた。
「海賊どもめ!俺の娘に近づくな!」
「おとうさん!」
父が海賊目掛けて発砲する。
「このッ、邪魔すんなら…死ね!」
ダァン!ダァン!
再び銃声が響いた。
銃弾を受けた父の身体がゆっくりと傾ぐ。
「おとう…さん?」
最後にこちらを向いた父が、口の動きだけで『にげろ』と伝えた。
ドサリと父は崩れ落ち、血の海に沈んだ。
「いやぁぁッ!おとうさん!」
泣き叫び、父の下へと駆け寄ろうとすると、草陰から飛び出して来た誰かに強く腕を引かれて阻まれる。
母だった。
「おかあさん!お、おとうさんが…ッ」
「振り返ってはダメ!走るのよ!」
ダァン!ダァン!
背後から何度も銃声が聞こえるが、母は足を止めずにモモの手を引いて走った。