第1章 唄う少女
それはある日の、いつものようにモモがひとりで遊んでいたときのこと。
道端に傷ついた小鳥がうずくまっていた。
「ことりさん、かわいそう…。」
モモは金緑の瞳に涙を溜めて小鳥を拾い上げた。
そしてすぐに『癒やしの歌』を唄ってしまったのだ。
普段のモモだったら、それでも人気のないところまで移動しただろう。
けれど小鳥があまりに痛々しくて、ついその場で唄ってしまった。
たちどころに小鳥の傷は治り、元気に鳴いて空へと飛び立った。
(よかった…。)
「…お嬢ちゃん。」
ほっとしたのも束の間、後ろから掛けられた声に飛び上がって驚いた。
恐る恐る振り向くと、モモのすぐ後ろには、ことの成り行きを見ていたひとりの男がいた。
「今、何をした?」
「な、なにもしてない!」
ブンブンと首を振り、否定した。
「いいや、した。お前は今、鳥の傷を治してみせたじゃないか!」
「してない!してない!」
男の値踏みするような目に、恐ろしくなってモモは家へと逃げ出した。
後ろから呼び止める声が上がったが、振り向かずにそのまま走った。
しかし、幼い少女が駆ける速さより、男の行動の方が早かった。
すぐに近隣の村人に聞いたのだ。
「金緑の瞳をしたガキの家はどこだ?」
そんな珍しい色の瞳を持つ子供はひとりしかいない。
村人はその男に、村のはずれだと教えてしまった。
男は仲間を引き連れ、モモの家へと向かう。
男は海賊だったのだ。