第23章 仮面の暗躍
でも…、でもね。
これは幻想かもしれない。
“死の外科医”
その異名を持つあなたの手は、もしかしたら、もう血に染まっているのかもしれないけど。
だけど…わたし、あなたが人を殺すところを見たくないの。
これはワガママかもしれない。
あなたの手は、医者の手。
誰かを殺すのではなく、救うためにあって欲しい。
海賊のあなたには、それは難しいかもしれない。
なら、せめて。
わたしのために、誰かを殺さないで欲しい。
そんなあなたを見たくないの。
これは、わたしの幻想。そして、ワガママ。
モモの瞳から、新たな涙がポロリと零れた。
「………ッ!!」
ローはギリリと音がしそうなほど、歯を食いしばった。
…カチン。
そして、たった今、海兵の命を奪おうと構えた刀を鞘に収めたのだ。
「……お前が、そう望むなら。」
燃え狂う怒りは決して鎮まりはしないけど、それが彼女の望みなら、自分は従おう。
「ごめ…なさ…。ワガ…ママ…で。」
「バカ言ってんじゃねェよ。もっと言え、ワガママくらい。」
むしろ、言って欲しい。
もっとたくさんワガママを言って、自分を振り回して欲しい。
モモはローを甘やかし過ぎるから。
まだ身体の自由がきかない彼女に、そっとキスを落とした。
「約束だ…。命は取らねェ。だが、落とし前はつけてもらう。」
「……?」
ローはモモの髪を撫で、スッと立ち上がると、再び刀を構えた。
“アンピュテート”
ビュビュ…ッ
風を切るような剣捌きで、ローは海兵たちのとある身体の一部を切り取った。
「……!」
それは、まさしく“男の象徴”となるモノ。
モザイクが掛かりそうなその物体が地に落ちると、その上に勢い良く足を踏み降ろす。
「ひィ…! や、やめろォ!」
グシャ…ッ
「ぎィやぁぁあぁァ!!」
大の男の大絶叫に、モモはキツく目を瞑った。
女の自分でも、その痛さが伝わってくる気がする。
「俺の女に手を出したんだ…。このくらいの報いは当然だろ。この先、一生、竿なしで生きるんだな。」
ローは歪んだ口元に弧を描きながら、凶悪に笑った。