第3章 ハートの海賊団
その日の昼食は、今までで一番手をかけて作った。
魚の骨や貝類から出汁をとった具だくさんのパエリア。
日持ちする芋をほっくりと蒸し、香り高い薬草をハーブ代わりに使ったポテトサラダ。
米粉を練って作った、ヌードルスープ。
「うおぉぉ!今日のメシは一段とうめぇ!」
「モモ、おかわりっス!」
「モグモグモグモグ…。」
笑ってみんなに給仕する。
(これが、わたしがみんなに作る最後の料理…。)
ありがとうの気持ちを込めて、精一杯作った。
だけどローだけは、黙々と食べるだけで最後まで口を開くことはなかった。
「お前、今日はやけに気合いを入れてメシを作ったじゃねェか。」
食事の後片付けをしていたモモに声をかけた。
「まさか、この船を降りるつもりでいるんじゃねェだろうな。」
「………。」
モモはローの方を向かず、片付けの手を止めない。
そんな様子に苛立ち、腕を掴んでこちらを向かせる。
「残念だが、お前をこの船から降ろすつもりはない。」
上陸時には逃げないように傍に置いておくつもりだ。
島に着いたら、服や家具などモモに必要なものを揃えてやらねばと考えている。
モモには悪いが、もう逃がしてやることは出来ない。
それだけローはモモを気に入ってしまっている。
(例え嫌がられてもな…。)
だが、モモはローの予想とは違う反応をした。
笑った。
怒るでも怯えるでもなく、優しく微笑んだのだ。
ローの手を取り、そっと書き綴る。
『わたしはこの船に拾われて幸せです。』
あの日から忘れてしまった感情を、この船に乗ってからたくさん思い出せた。
泣いて、
怒って、
驚いて。
そして笑った。
(みんなとずっと旅が出来たら、どんなに楽しいかしら。)
あなたと本当に恋人になれたら、どんなに--。
わたしはセイレーン。
わたしがこの船に乗れば、みんなはずっと海軍に追われることになる。
それだけ危険にさせてしまう。
だから、さようなら。
「…泣いているのか?」
微笑んでいるはずなのに、ローにはなぜかモモが泣いているように見えた。