第23章 仮面の暗躍
「……モモ!」
飛ぶような勢いで造船所の裏側までやってきた。
しかしモモの姿は見当たらない。
「クソ…、どこに…。」
自分の考えが思い過ごしならいい。
けれど、やけに騒ぐ胸の音が、思い過ごしではないことを告げていた。
「く…きゅ…ぅ。」
その時、聞き覚えのある鳴き声に足を止めた。
「……ヒスイ…ッ」
隅の方でゴミのように転がっていたヒスイがローを呼んだ。
駆け寄り、抱き上げてみると ひどいケガを負っていることがよくわかる。
斬りつけられたのだろうか、一刀されたかのような切りキズが痛々しい。
「ヒスイ、なにがあった! モモはどうした!?」
「きゅ…きゅきゅぅ。」
震える手で、ヒスイが指をさす。
その方向には、ローがモモに貸した愛用の帽子がコロリと転がっている。
「……!」
くそ、思ったとおりか…!
ここには政府の、海軍の匂いがぷんぷんする。
“ホワイトリスト”
モモにつけられたランクはS。
忘れていたわけではないが、あれからモモが狙われることが少なかったので、甘く見てしまっていた。
「……殺してやる。」
自分からモモを奪おうとするヤツは、誰であろうとぶっ殺す。
怒りでふつふつと沸騰しそうな頭を必死に落ち着かせ、冷静に考える。
もし、自分が政府の人間なら、モモを攫ったあとどうする?
決まってる、邪魔が入らないうちにさっさとトンズラする。
「チッ…、港か…!」
今の自分たちに船はない。
島を離れる前に取り返さなければ…!
「クソ……ッ」
ヒスイを抱いたまま、ローは一目散に港へ向かった。