第23章 仮面の暗躍
作業場から少し離れた木材置き場でモモは足を止めた。
「…良い香り。」
加工されたばかりの木材からは芳醇な樹の香りがする。
やっぱり草木の香りは心が落ち着く。
しばらくここで時間を潰そうかと思っていると、ひとりの男がおずおずと声を掛けてきた。
「あのぉ…。」
「はい?」
自分を呼ぶ声に振り向けば、声を掛けてきたのはまだ若い職人だった。
「モモさんですよね?」
「ええ、そうですけど。」
「ああ、良かった。船長さんが探してましたよ。」
ローが?
もうアイスバーグとの話は終わったのだろうか。
思ったよりも早かったなぁ…と不思議に思う。
「ありがとうございます。ローはどこに?」
「造船所の裏にいましたよ。」
「裏…?」
なぜそんなところに…?
「ずいぶんと探していたようですよ。」
「え…。」
しまった、こんなところにいたから心配させてしまっただろうか。
「そうですか、すぐに行ってみます。」
若い職人にお礼を言って、造船所の裏側へ向かった。
「ええっと、どうやって行けばいいのかしら。」
造船所内は複雑で、迷子になってしまいそう。
「オイ、あんた。こんなところでなにしてんだ。ウロウロしてると危ねぇぞ。」
「あ…。」
彼は確か、職長のパウリー。
「あの…、造船所の裏にはどうやって行けばいいんですか?」
「裏ァ? …なんだって、そんなところに。」
「ローが…、わたしの船長が探しているようなので。」
「ふぅん。」
だからって、わざわざ造船所の裏にまで呼びつけるとは…。
海賊の考えることはわからない。
「そっちの脇道を通ってけよ。材木とか転がってるから、足元に気をつけろよな。」
「ありがとうございます。」
言われたとおり、脇道に進んだ。
その頃、先ほどの若い職人がひとりの男のもとへ駆けていった。
「あ…、頼まれていたこと、あの子に伝えてきましたよ!」
「そうか、すまんな。…それで、ちゃんと向かったか?」
「はい!」
「助かった。ワシは少し手が放せなかったもんでの。」
「いえいえ、僕みたいな新人が役に立てて良かったです! …カクさん!」
若い職人の憧れの視線を受けて、カクはニコリと笑った。