第23章 仮面の暗躍
ジリ…っと僅かに後ろへ下がったとき、男性の背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あっれー? モモじゃん! あ、船長も。」
「…シャチ!」
ほんの1日会わなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりな気がする。
「…なにしてんだ、こんなところで。」
「船長たちこそ! ああコイツ、ブルーノっていってさ、酒場のマスターでよ。昨日、すっかり意気投合しちまったんで、街を案内してもらってたんだ。」
「へへへ…。どうも。」
ああ、そういえば。
そんな酒場に行くとか言ってたっけ。
「このあと、ペンギンとベポとまた酒場で一杯やるんだけど、船長たちもどうすか?」
「あァ、是非いらっしゃい。」
『酒場に行くのは止めておいた方がいい』
ホーキンスの言葉が頭をよぎった。
ローの言うとおり、占いばかりを信じるのもどうかと思うけど…。
でも、本能的に行きたくないと思った。
「わたしは…、遠慮しておくわ。」
「俺も少し用がある。お前らだけで楽しめよ。」
酒場に行かないことにローも賛同してくれたので、少しホッとする。
「ちぇ、つまんねーの。」
「へへへ…、気が向いたらいつでもどうぞ。」
「行くぞ。」
「…うん。」
別れ際、ぶつかってしまったお詫びに、ブルーノに向かってぺこりと再び頭を下げた。
その時だった。
ローから借りた帽子が、ふわりと外される。
「え…?」
驚いて顔を上げると、帽子を手に持ったブルーノとしっかり目が合う。
「あァ、すみませんね。素敵な帽子だったので、気になって…。」
どうぞ、と帽子を返された。
「いえ…、それじゃあ。」
ぎこちなく笑って別れを告げると、モモは足早にローのもとへ駆けて行った。
「…瞳の色を確認した。間違いない、あの女は“奇跡の歌い手 セイレーン”だ。」
「了解、確保する。」
「おーい、ブルーノ! なにしてんだよ、早く行こうぜ。」
「へへへ…、今行くよ。」
かすかに交わされた会話は、誰の耳にも届くことはなかった。