第3章 ハートの海賊団
次の日、モモは船上に設置したプランターにジョウロで水をあげていた。
(ここまで育てば、わたしがいなくなっても大丈夫ね。)
潮風にも強い薬草たちだ。水やりを欠かさなければそう簡単に枯れることはない。
例え数日の間でも、自分に任せられた仕事だ。今後のこともきちんとしてから別れたい。
「モモ。」
突然後ろから呼びかけられて、ドキリとする。できれば彼とは、まだふたりきりで会いたくない。
恐る恐る振り向くと、愛刀の大太刀を抱え、壁に寄りかかりこちらを見るローの姿。
『俺の女になれ』
昨日のやり取りもあり、少々警戒しながら構える。
「そこで何をしてる。」
(なにって…この薬草を見ればわかるでしょう?)
大きく育った薬草を指し示すが、ローは「?」と首を傾げて手のひらを差し出した。
「なにが言いたいのかわかんねェ。」
(書けってこと?)
以前から行動で意図が伝えられないときは手のひらに文字を書いて伝えていた。
仕方ない、と傍に寄り、手のひらを取った。
しかし、その手のひらはモモが書き綴ろうとする前にくるりと裏返り、反対にモモの手を掴んで、グイッと引き寄せた。
「…!」
気がつけばローの腕の中。
「ああ、悪い。薬草の世話で忙しいんだったな。確かにこれだけ育てば俺らでも面倒見れそうだ。」
「--ッ」
(なによ、わたしの言いたいこと、わかってるんじゃない!)
ひどい、とローを睨み上げる。
「なんだ、そんなに見つめて。お前もこうしたかったってことか。」
(そんなわけ、ないじゃない!)
グイと引き離そうとするが、ローの腕はガッチリ腰に添えられていてモモの腕力ではビクともしない。
真っ赤になってジタバタするモモを見て、ローは楽しげにクスクス笑う。
「薬草なんて心配しなくても、これからもお前が育てりゃいい。」
(わたし、海賊にはならないってば!)
「言ったはずだ。お前に拒否権はねェ、と。」
ローの手が、モモのキャラメル色の髪を撫でる。
その感触を思わず心地よいと感じてしまう。
(やめて、そんなふうに触らないで…。)
この船でこれ以上、「みんなと一緒にいたい」と思いたくない。