第3章 ハートの海賊団
「それに俺はお前をけっこう気に入ってるしな。」
(それは、わたしが薬剤師だからでしょう?)
そんな言葉に惑わされたりはしない。
ジトッとした目でローを睨む。
「そんな目で睨むな。…言っておくが、お前に拒否権はねェ。俺は欲しいと思ったもんは必ず手に入れる。」
スルリと首筋にローの手が触れる。
「安心しろ、俺はてめェの女にはけっこう優しい…。」
バシリ
反抗の意を込めて、ローの手をはたき落とした。
『わたしは海賊にはならない』
言葉に出来なくても、伝わったはずだ。
「断る…か。まぁ、いい。まだ時間はあるからな。」
ローはおとなしくはたかれた手を引っ込めた。
「だが覚悟は決めておけよ。お前を逃がすつもりはねェ。」
そう言ってローは、海賊らしい傲慢な顔で笑った。
バタン!
モモは乱暴に医務室の扉を閉めた。
怪我人として保護されたモモは毎日ここで寝起きしている。
「あれ、モモ。どうしたの? 顔真っ赤だよ。」
ちょうど様子を見に来ていたベポが声を掛けてきた。
なんでもない、と首を振る。
(ベポ、目的の島にはあとどのくらいで着くの?)
「ん、次の島までどのくらいって? そうだなー、早ければ明日の夜くらいには着くかな。」
ということは遅くとも明後日には到着する。
「でもボク、モモとお別れヤダな…。」
(ベポ…。)
つぶらな瞳に胸がキュンとする。
「せっかく友達になれたのに。」
(友達…ッ!)
その言葉に感動する。
自分の人生において、今まで友達というものはいただろうか。
幼い頃は『変な子』のレッテルを貼られ、故郷を追われた後は、なるべく人と関わらないように生きてきた。
ベポの言う『友達』というワードには、ローの言う『俺の女』より、よほどモモの心を動かした。
(でも、ゴメンね。わたし、ここにはいられない…。)
『奇跡の歌い手 セイレーン』
彼らはモモがそう呼ばれていることを知らない。
もし知ったら、どんなふうに思うのかな。
友達だなんて思ってくれないよね。
(きっと、あの人も…。)
考えを変えるに決まってる。
チクリと胸が痛んだ。