第22章 可愛いひと
人の体温がこんなにも安心できるものだとは知らなかった。
以前の自分は眠る時間があるなら研究に費やす方がマシだと、ほとんど睡眠をとらず、周囲を呆れさせた。
しかしモモと出会ってから、その考えは一変する。
モモを抱きしめていると心が落ち着いて、眠たくなんてなくても勝手に睡魔が訪れるから不思議だ。
彼女と眠るようになって、目の下にできた隈はずいぶん薄くなった。
もうこの体温なしで、昔の自分がどうやって眠っていたかなんて思い出せない。
心地よい眠りを貪っていると、腕の中のぬくもりがもぞもぞと動き出す。
(……まだ、ねみィ。)
おとなしくしていろ。
逃げられないように腕に力を込めた。
「ちょ…、んん、苦しい…。」
抱きしめたぬくもりは、体勢を変えて、ぎゅうぎゅうと締めつける腕からなんとか抜け出してしまう。
だから今度は腰を掴んで柔らかな太腿に頭を乗せた。
「もう…。」
仕方がないな…と呟いて、彼女の白く華奢な指が少し癖のある自分の髪を撫でる。
それが心地よくて、さらなる眠りを呼ぶ。
『あの日君と見ていた未来を、ずっと永遠にしたくて。記憶の中、大切なものに、何度も手を伸ばそうとするけれど。』
まどろみの中にいるローの耳に澄み渡った声が届く。
『同じ過去も今も、二度と繰り返せはしないから。輝いてた思い出たちを、振り返ってしまうんだろう。』
『真っ白な未来にさえ、不安が溢れ出して、足を竦ませるから、立ち止まり揺らいでしまうよ。』
その声は、あれほどぼんやりしていた頭にスッと染み込み、意識を浮上させた。
『駆け抜ける未来の途中で、どんな明日を描けるのだろう。』
『強く強く信じ合えたなら、どんな未来が待っているのだろう。』
瞼を開けると、愛しい彼女の眩しい笑顔。
思わず目を細めてしまう。
「おはよう、ロー。」