第22章 可愛いひと
最後の一滴まで注ぎ込んだあと、ローはモモの上にドサリと覆い被さった。
どのくらいそうしていただろう、荒い息づかいがようやく収まったころ、ローはゆっくりと身体を起こす。
モモの様子を窺えば、彼女は気を失っているのか、瞳を閉ざしたまま動かない。
唾液でぐっしょりと濡れて、モモの口内を占領するハンカチに手をかけ、ズルリと引き出した。
その瞬間…--。
気を失っていたはずの彼女が、金緑の瞳をパチリと開けた。
そして、火事場の馬鹿力とでもいうように、今までにないくらい腹筋を酷使して、ローの頭部めがけて自身の頭部を思いっきりぶつける。
ゴチィィンッ!
「---ッ!?」
「いっ…た…ッ」
人生初の頭突きに不意をつかれたローはもちろん、かましたモモも痛みに呻く。
だけどその痛みに負けじと体当たりをして、その勢いのままローを押し倒す。
「なに…しやが…--!?」
訝しむローの首筋に、今度は思いっきり噛みついてやった。
「……くッ」
思いもよらぬ痛みに眉をしかめる。
「………て…よ。」
「……あ?」
掠れるような声が聞き取れない。
だから、今度は起き上がって視線を合わせながら言った。
「抜き取ってよ、わたしの心臓。」
「……!」
あなたのその手で、抜き取って。
「そうしたら、わたしの心の中身が見えるでしょう?」
そんなにわたしの心が心配なら、そうやって覗いて欲しい。
覗いてみたら、わかるでしょ?
わたしの心に、あなたしか住んでいないことが。