第3章 ハートの海賊団
ローは椅子から立ち上がり、モモの傍らへ跪いた。
「あー、…悪かった。だから泣き止め。」
謝って欲しいわけじゃない。
だってモモに魅力がないのは本当だから。
(あなたは悪くない。ただ、わたしが勝手に…。)
勝手に、傷ついただけ。
ポロリと涙がもう一滴落ちた。
「ハァ…、泣くなよ。」
モモの目元をローの指がそっと拭った。
その指の温かさに、長い睫がふるりと震える。
涙に濡れた金緑の瞳が、ローを捉える。
(飴玉みたいだな…。)
瞳に惹かれるようにして、ローはモモの目元を舐めた。
「……………。」
涙が止まった。
一瞬なにをされたのかわからなくて、キョトンと大きく目を見開いた。
だんだんと頭がまわり、状況を理解して、ボン、と顔が燃える。
(な、ななな、なにして…ッ)
「~~~ッ」
ドンと肩を押して後ずさる。
「泣き止んだな。」
そういえばいつの間にか涙も、悲しい気持ちもどこかへ飛んでいった。
(そのためにこんなことしたの!?)
モモは驚きと羞恥に、口をパクパクさせる。
ようやく泣き止んだモモに満足しながら、とある考えが頭をよぎる。
「そうか…。その手があったな。」
「?」
「お前を俺の女にすればいい。」
(………え?)
言ってる意味がよくわからない。
「お前が俺の女なら、アイツらも変な諍いを起こしたりしねェだろ。」
妙案だ、とばかりにローは言うけど、やっぱり意味がわからなくて、モモは首を傾げる。
「ちょうどクルーに医術が使えるヤツが欲しかったところだ。お前なら技量は申し分ないし、料理も上手いときてる。」
(勧誘、されてるってこと…?)
「だが、男だらけの船に女が加われば、アイツらも浮き足立っちまう。」
それはこの数日間で十分理解してた。
シャチもペンギンも気の良い男だけど、できればふたりきりになるのは避けたい。
「けどそれも、お前が俺の女になれば問題ねェ。」
(つまり、わたしを仲間にしたいから、恋人になれってこと…?)
ずいぶんな言いようだ。
確かにモモは恋をしたことがないけど、ローの言うことが世の恋人たちとは違うってことはわかった。