第3章 ハートの海賊団
船長室の前でモモは頭を抱えていた。
(どうしよう、調剤の途中だったのに…。)
食事が済んだら再び作業に取りかかるつもりで、やりかけのまま出てきてしまったのだ。
途中で投げ出すのは良くない。
すぐにでも仕事を再開したいが、中に入る勇気がない。
原因は、もちろん先ほどのこと。
(裸、見られた…。)
思い出すと恥ずかしくて死にたくなる。
過去の忌まわしい事件から、ずっとひとりで生きてきたモモは、当然異性に免疫がない。
恋だってしたことないし、こんなに身近で触れ合うのも初めてだ。
それが突然あんなことになってしまって、ローとどう接したらいいかわからくなってしまった。
(でも、あれはあの人がわたしに任せてくれた仕事…。)
ローは最初、モモに大した手伝いをさせなかった。
けれど仕事ぶりを見るうちに、徐々に信頼して仕事を任せるようになったのだ。
(信頼を、裏切りたくない。)
結局、乙女心より薬剤師としての誇りが勝った。
意を決して扉を開け、室内に入る。
恐る恐る彼の姿を伺うと、ローはデスクに座り背中を向けていた。
そろりと近づき、途中だった調剤に取りかかる。
(…平常心、平常心。)
一向に治まらない動悸を鎮めようと呪文みたいに心で呟く。
「…オイ。」
「--!!」
ビクリと肩を跳ねさせた。
みるみるうちに顔が赤くなり、小さく震える。
(…うまそうだな。)
真っ赤に染まった耳を見下ろし、かじり付きたくなる衝動に駆られる。
そのままかじってみたくなったが、俯いて顔も上げられない彼女を可哀想と思い、欲望をグッと堪える。
「さっきのこと気にしてんのか? 心配しなくてもガキの身体に興味ねェよ。」
嘘だ。
本当は今この場で押し倒してやりたくなる。
ぶるりと震え、俯いた顔からキラリと涙の雫が零れる。
動揺した。
泣かせるつもりじゃなかったのだ。
「オイ…、泣くほどのことじゃねェだろ。」
モモはフイと顔を背け、目元を拭った。
(…ガキの…身体…。)
自分の身体に魅力がないのはわかってた。
胸だってそんなに大きくないし、肉付きも悪い。
夜の街で見かけるような豊満な肢体の女性とは雲泥の差だ。
(でも、なんでかな。あなたには言われたくなかった…。)