第21章 魔術師のカード
念願だった占いもしてもらい、モモは大満足でコーヒーを啜っていた。
得ることができなかった“普通の女の子”という青春時代を、少しだけ体験できたような気がしたのだ。
「…来たな。」
「なにがです?」
ポツリと呟いたホーキンスの言葉に首を傾げる。
「波乱だ。」
「え…?」
なにを言っているのだろう、とキョトンとしたけど、すぐにその意味がわかることとなる。
「オイ……。」
聞き慣れた声に顔を上げれば、ずっと探していた彼の姿。
ホーキンスの言うとおり、本当に会えた!
「…ッ、ロー…--」
ガシャァン!
モモが嬉しさに顔を綻ばせたのと、ローが鬼哭をテーブルに叩きつけたのはほぼ同時だった。
テーブルに置かれたシュガーポットが音を立てて割れ、中の角砂糖がバラバラと散らばった。
周囲がシーンと静まり、突然のことに思わずモモも固まってしまう。
「てめェ…、俺の女となにしてやがる。」
射殺さんばかりにホーキンスを睨みつける彼に、ハッとした。
ローは勘違いをしている。
「待って…! 違うの、ホーキンスさんはただ…--」
ただ自分を助けてくれただけ。
「“ホーキンスさん”…だ?」
見知らぬ男を親しげに呼ぶモモに、さらに苛立つ。
「モモ…。お前、いつから知らねェ男に尻尾を振る女に成り下がった?」
「な……!?」
事情も聞いてくれず、一方的に吐き捨てるローに絶句した。
尻尾を振るだなんて、それはあまりにヒドいのではないか?
さすがのモモも怒りを覚えずにはいられない。
「そんな言い方…!」
「もういい、お前は黙ってろ。…てめェがコイツを誘惑したのか。」
こんな状況になって尚、優雅にコーヒーを啜るホーキンスを見下ろした。
「…くだらん。」
「なんだと…?」
ピリリと空気が張り詰める。
「女の言い分も聞けない狭量な男とやり合うつもりない、と言っている。」
ズバッと言い捨てたホーキンスの言葉に、ローは額に青筋を立てた。