第21章 魔術師のカード
その頃、ローはモモを探して島中を駆け回っていた。
まずは中心街を探したけど見当たらない。
念のため造船所へも戻ってみたけど、そちらにもいない。
(クソ…、いったいどこに…!)
ブルはそのまま繋いであったので、そう遠くへは行けないはずだ。
まさか本当に危険な目にあっているのでは、と焦りが生まれ始める。
どうして目を離してしまったのか、どうして手を繋いでいなかったのか。
まるで幼い子供に向けるような感情を、ローは本気でモモに抱いた。
人混みの中、モモの気配を探りながら練り歩く。
どんなに人が溢れていようとも、自分がモモを見つけられないわけがない。
そうして裏町に入ったところで、ついにモモの姿を見つける。
ガラス張りのカフェで自分が貸した帽子を被り、呑気にお茶を飲んでいるのは間違いなく彼女だ。
(アイツ…、俺にこんな思いをさせといて、なにをゆっくりしてやがる。)
いつだって、ローの心を掻き乱すのはモモだけなのだ。
心の中で悪態を吐くけれど、本当は心の底から安堵していた。
しかし、安堵できたのも少しの間だけ…。
モモはひとりではなかったのだ。
(……なんだ、あの男は。)
お茶を飲むモモの向かい側には、見知らぬ男が座っていた。
たまたま相席になったわけではないということは、モモの表情を見ればすぐにわかった。
モモが親しげに笑みを向けていたから。
その瞬間、ローの胸に黒くドロドロした感情が渦巻いた。
俺以外の男に、そんな笑顔を向けんじゃねェ…ッ。
安堵は嫉妬という怒りに変わり、凶悪な自分が顔を出す。
このままモモのもとへ向かえば、彼女を怖がらせてしまう。
そんなことわかっていても、カフェに乗り込む足を止められなかった。