第20章 造船所
「おい、ルッチ。ふざけてんじゃねぇぞ、めんどくせぇ。」
『年中遊びまわってるお前には言われなくないな、パウリー。』
「なんだと、てめぇ…。」
2人の間にバチバチと火花が舞う。
「ンマー!! 止めないか、2人とも。」
「アイスバーグさんの言うとおりよ、2人とも。お客様の前なんだから。」
アイスバーグとカリファの制止に、いったん険悪な雰囲気を治めた。
「悪いな。これでも2人とも職人頭だ。大目に見てやってくれ。」
職人さんというのは、血気盛んなものなのだろう。
「構わねェよ、俺たちは海賊だ。政府のお偉いさんと違って、こういうのには慣れてる。」
「へぇ、あんたら海賊かい。」
シュボっと葉巻に火をつけながらパウリーが言った。
「きゅい…。」
ヒスイが露骨に嫌な顔をする。
どうやら葉巻の煙が嫌いらしい。
「……。」
そんなヒスイが珍しいと思ったのか、ルッチがこちらに視線を向けた。
ぞわぞわぞわッ
「--ッ!」
瞬間、先ほどとは比べようもないくらいの悪寒が全身を駆け巡った。
(なに…、この感覚…。)
この場にいたくない。
逃げ出してしまいたい。
背筋に汗が伝う。
そんな動揺に気づかれたくなくて、ローの帽子でギュッと顔を隠す。
「モモ? どうした。」
普段と様子が違うことに、ローが気づいてしまう。
「……ヒスイが、ここの空気を嫌がってるの。わたし、外に出てていい?」
モモの言葉にヒスイを見ると、葉巻の煙に対してあからさまに嫌な顔をしている。
「…ベポ。」
「アイアイ! ボクもついてくよ!」
モモをひとりにするわけにはいかない。
本当は自分がついていてやりたいけど、これからの商談はローがいなくては進まない。
仕方なく護衛をベポに任した。
「ごめんなさい、ベポ。」
「ううん、いいよー。」
ベポに連れられてモモは造船所の外に出て行く。
その後ろ姿をローの他に、ハトを肩に乗せた男がじっと見つめていた。