第19章 水の都へ
トンテンカン、
トンテンカン。
さすがは海に生きる男たち。
専門的な知識がなくても、簡単な船の補強くらいわけない。
あっという間にマストは応急処置された。
「すごいわ、みんな。これなら安心してウォーターセブンに迎えるね。」
自慢じゃないが、モモは薬剤師の仕事と家事くらいしか得意なことはない。
それに比べて、あらゆることに秀でた彼らに本気で感心し、パチパチと拍手をした。
「いやァ、それほどでも…。アイタッ!」
褒められてデレッと頭を掻くシャチの背を、ローが鬼哭でど突いた。
(出たよ、船長のヤキモチ。)
とばっちりで受けた背中の痛みをサスサスする。
「…本が読みたい、部屋に戻るぞ。」
修理の様子をデッキの階段に腰をかけて眺めていたモモに声をかけた。
「うーん。わたしは今日の調剤が終わっちゃったし、先に戻ってていいよ?」
そう答えたのは、ただ単に腰が痛くて動きたくなかったのと、天気が良いから外にいたかっただけ。
しかしそれはローの機嫌を大いに損ねた。
(オイオイ、モモ~…ッ)
彼女はその様子に気がつかないのか、呑気にローの帽子を被り直している。
「モモ、身体がツラいときに無理しちゃいけねぇよ。部屋に戻ってろって。」
頼む、戻ってくれないと俺たちがツラい…!
シャチの心の声が伝わってか、モモがきょとんと首を傾げる。
「そうね…。じゃあ、戻ろうかな。」
「ほぅ…、シャチの言うことはきくんだな。」
ホッとしたのも束の間、新たな嫉妬の種が生まれる。
(えぇ~…ッ)
ちょっと船長、そんな目で見ないで。
「ねぇ、ロー。それじゃあ、部屋に連れてって?」
申し訳ないが、自力じゃ動けない。
両腕をローに向かって伸ばした。
「………。」
その様子を無表情で眺めた。
しかし付き合いの長いシャチにはわかる。
(あ、船長…。嬉しいんだ…。)
「…しょうがねェな。」
そうしてローは、渋々といった態度でモモの要求に応えるのだった。