第3章 ハートの海賊団
ローがシャワールームの扉を開け、脱衣所に入ると、浴室から立ち込める湯気が使用中であることを知らせた。
(…こんな時間に誰だ?)
傍のカゴを見ると、浴室にいる人物の着替えは置いていない。
(ベポか?)
昨日、風呂嫌いの彼に「ノミが湧くからそろそろ風呂に入れ」と注意した。
ベポはあまり風呂に入らないせいか、ちょいちょい着替えを忘れる。
といっても毛皮という服を着ているので、問題はないのだが。
(アイツが風呂に入ると排水口に毛が詰まるんだがな。)
自分の毛だ。自分で掃除させよう。
そう思って浴室のドアに手をかけた。
ガチャ
「オイ、ベポ…--。」
立ち込める湯気の中にいたのは白クマ…ではなく、白い肌をした女の姿。
金緑色の瞳が、驚きに見開かれる。
「~~~~ッッ!」
バン!!
モモが真っ赤な顔をして声にならない心の叫びを上げるのと、焦ったローが勢いよくドアを閉めるのはほぼ同時だった。
(み、見られた…!)
それもバッチリ。
よりによってローに!
グスン…。
恥ずかしいやら、情けないやらで涙が出てくる。
(どんな顔して出たらいいの…。)
一方、浴室の外ではローが石のように固まっていた。
たった今見た光景が、目に焼き付いて離れない。
湯気の中から覗いた細くて白い肢体には、濡れて艶の増したキャラメル色の髪がまとわりついていた。
ふっくらとした胸と細くくびれた腰が、女性らしさを強調した。
肩口と腿のあたりにある縫い傷は、間違いなくローが縫ったもの。
(なんでアイツがここに…ッ)
その答えはすぐに得られた。
「あれ、キャプテン。なにしてるの?」
振り向けば、中にいると思っていた白クマが立っている。
「シャワーならモモが使ってるよ。」
もう見てしまったので知っている。
「それで…、お前はなにしてんだ。」
「モモに着替えを持ってきたんだ。」
自分とおそろいのオレンジのツナギを見せる。
「バカか、お前は。それをモモが着たら、大きいどころじゃねェぞ。」
自分の巨体を考えろ、とローは手に持っていたパーカーを押しつける。
ローの背は高い。モモが着ればちょうどワンピースほどの丈になる。