第1章 唄う少女
モモはグランドラインの小さな島、小さな集落で生まれた。
小さい村のため人数こそ少ないが、周辺では数少ない有人島のため、物資補給のために島に寄る船は少なくなかった。
そんな中、モモは両親から固く禁じられていることがある。
『人前で歌を唄ってはいけない』
なぜ、と問わなくても幼いモモにだって理由がわかっていた。
自分たちは人とは違う、と。
『慈しみの歌』を唄えば、たちまち木々は元気になり、蕾は花開く。
『癒やしの歌』を唄えば、傷や病気があっという間に良くなる。
『眠りの歌』を唄えば、泣く子もたちどころに眠り、『雨乞いの歌』を唄えば雨だって降らすことが出来る。
絶対唄ってはいけないと言われているが、『滅びの歌』なんてものもある。
世界には、悪魔の実という食べるだけで不思議な能力が使えるようになる実があるらしいが、モモの力は生まれつきのものだ。
モモだけではない、母もこの力を使える。
つまりは遺伝的なもの。
村はずれにあるモモの家は、この力を使い、薬草や花を育て生計を立てていた。
村人にだってこの力は秘密。
でも幼いモモには、大好きな歌を唄ってはいけないというのが、たまらなく苦痛だった。
だから人気のないところに行っては、歌を口ずさんでいた。
キラキラと元気になる植物たちと戯れるのはたまらなく楽しかった。
おかげで村では『変な子』のレッテルを貼られてしまっているが。
でも、本当は唄ってはいけなかったのだ。
秘密がバレたら…と考えることが出来たら、あんなことにはならなかったはずなのに。