第19章 水の都へ
モモの腰を抱き、そのままベッドに押し倒した。
もちろん、キスをしたまま。
「答えろ、この唇は誰のものだ。」
軽く唇を合わせたまま、問う。
「ん…、ローのものよ。」
彼女の答えは、ローが求めていたもの。
だけど、ならば絶対に他の誰にも許すな、と言っても、それが無理なことはローにはわかっていた。
なぜなら、モモという女は目の前に苦しんでいる者がいれば、必ず助けに行く女だからだ。
例えば、目の前に呼吸困難に陥った患者がいたならば、躊躇いなく唇を合わせ、人工呼吸を行うだろう。
そんな彼女だから、愛している。
彼女を愛するならば、それを制限してはいけないのだ。
「……クソ。」
そうとはわかっていても、許せるかといえばそうではない。
胸の内で暴れる獣を抑えつけるために、ローはモモの首筋をキツく吸い上げた。
「…んッ。」
チクリと走る首筋の痛みに顔をしかめながらも、モモはその頭を優しく撫でる。
「ロー、嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさい。でも、わたし…嬉しい。」
モモの思いもよらない言葉に、ローは顔を上げる。
「嬉しい…? なにがだ。」
「ヤキモチ、焼いてくれているんでしょう?」
それって、わたしのことが好きだからだよね。
ローはわたしが好きでヤキモチを焼いてくれているのね。
そう思うと、嬉しくて胸がドキドキするの。
「…モモ。」
自分がモモに対して抱く感情は、ヤキモチというにはドロドロして どす黒いものだ。
それを“嬉しい”という。
「大丈夫よ。わたしの髪の毛一本から心のカケラまで、全部あなたのものだから。」
そう言ってモモはローの顔を引き寄せ、彼の唇に優しいキスをした。
それはエースにしたものとは違って、たくさんの“愛してる”が詰まったキス。
甘い甘い彼女のキスに、ローの中の獣は嘘のようにゴロゴロと喉を鳴らし始めるのだった。