第18章 生まれる絆と繋がる命
もし、あの頃の自分なら、間違いなく彼女の手をとったことだろう。
けど、今は…。
「セイレーン、ありがとう…。けれど、ワシは行けぬ。」
ユグドラシルはモモの手をとることはなかった。
「…どうして?」
「この地には、ワシの愛した者たちが眠っておる。彼らを置いてはいけぬよ。」
それに、自分の命はもう--。
「小僧、ワシを燃やせ。」
「…!」
突然、話を振られたエースは目を見張る。
「待って、どうして!」
伸ばした細い根を、モモの手に絡ませた。
「ワシは十分に生きた。もう、眠りたいのじゃよ。」
そして愛した者たちに会いに行こう。
謝って、謝って、それから地獄に堕ちていきたい。
「そんなのって…ッ」
金緑の瞳に涙が溜まる。
そんな顔をして欲しくなかった。
だって、ユグドラシルは、もう十分に救われたのだから。
彼女の言葉に。
「セイレーン。…いや、モモ。礼を言おう。おぬしのおかげで、ワシは化け物としてではなく、一本の樹として散ってゆける。」
「そんな…ッ」
なおも言い募ろうとしたモモの腕を、ローが引いた。
「…わかってやれ。ソイツはどのみち、もう長くねェ。」
涙として体外に放出された世界樹の雫。
それを失ってから、ユグドラシルは目に見えて老化していく。
もう、幾ばくの命もないだろう。
「小僧…。頼む。」
「火拳屋…。」
ローとユグドラシルに頼まれ、エースはギュッと拳を握る。
「なんて後味の悪さだ…。恨まれた方がマシだぜ。」
覇気を纏わせ、大きく拳を振り上げた。
「エース、やめて!」
叫ぶモモを、ローがきつく抱き止める。
“火拳”
ゴォッと唸りを上げて放たれた炎の拳が、ユグドラシルの身体を貫いた。