第3章 ハートの海賊団
料理当番とローの助手。
モモにできることが増えた。
それでもこの一味に受けた恩は、このくらいで返せるものでない。
その日からモモは船長室でローの手伝いをすることになった。
「モモ、これとこれを煎じてこっちに混ぜろ。それとこっちの粉末は丸薬にしてくれ。」
次々と渡される薬と薬草を受け取り、モモは指示通りに動いた。
ローの研究の手伝いは、村で薬剤師として働いていたときよりずっと刺激があって楽しい。
新しい発見もあるし、合間に医学書を読むことも許された。
小さな村で薬剤師をするのはどうしたって限界がある。
でも世界を渡り歩く海賊船は、新しい知識と発見の塊のようだ。
(わたしも、こんなふうに自由に旅ができたら…。)
一度味わってしまった贅沢は、モモに叶わぬ夢を見させる。
わかってる。
自分がこうしてこの船にいられるのはあと2、3日ということ。
モモは薬草を煎じたものにローから受け取った別の薬品を混ぜた。
コポコポと音を立て、薬はまったく違う色合いに変化する。
「ほう…、なかなか良い反応だ。」
満足げに呟くと、ローは薬を受け取って違う作業に取りかかる。
(…と、もうこんな時間。)
そろそろ夕食の準備をしなければならない。
ローの服の裾を引っ張り、扉を指差す。
「ああ、行ってこい。俺もそのうち行く。」
「モモ~、今日のゴハンなあに?」
キッチンにベポがひょっこり顔を出した。
モモは仕込みが終わり、後は煮込むだけの鍋のフタを開けて見せた。
「わ、シチューだ!」
すでにいい匂いを漂わせる鍋をクンクン嗅ぐ。
そんなベポの姿にモモは一歩下がった。
「ん、どうしたの?」
「………。」
実は数日前から気にしてることがある。
ずっとお風呂に入っていない。
傷にも良くないから、と毎日身体を拭くことしか出来ていないのだ。
だけど、そろそろ体臭が気になっていたのだ。
(お風呂、入りたい…。)
モモはこれでも年頃の女の子だ。
「モモ、お風呂入りたいの?」
俯きながら小さく頷いた。
「じゃ、入ったらいいよ。ボク、案内する。」
(え、いいの?)
顔を上げ、表情をキラつかせた。