第3章 ハートの海賊団
「馬鹿、お前何を…!」
思わずローがモモの手を取った。
(やっぱり…。)
土は、ほのかに甘い。
鉢植えを置き、自分を掴むローの手を取って、その手のひらに指で綴る。
『土が良くない』
「…なに?」
『この薬草は痩せた大地でもよく育ちますが、逆に肥沃な大地が嫌いです』
どうやら薬草のことらしい。
どれも初耳で、有益な情報だ。
「待て、これに書け。」
ローはデスクから紙と羽ペンを引っ張り出し、モモに差し出した。
『この薬草に肥料を与えてはいけません。元気がなくなります。土は少し砂利や小石の混じった固いものが適しています。水も2日に1回で十分です』
サラサラと流暢な文字が薬草の育て方を指示し、紙を埋め尽くした。
「お前、なぜそんなことを知っている。」
そんなことどんな本にも載っていなかった。
紙を埋め尽くしてしまったため、モモは再びローの手を取り書き綴って言った。
『わたしは薬剤師です』
「…薬剤師?お前が?」
コクリと頷く。
『薬の調合と薬草の育て方ならお手伝いできます』
「手伝いだと?」
できる、と金緑の瞳が自信あり気に語った。
(手始めに、この子はわたしに任せて。)
鉢植えを再び持ち上げ、胸に抱いた。
「任せろと言うのか。」
大きく頷く。
ローの目がモモを値踏みするように見る。
この船には自分以外に医療の知識を持つ者はいない。
本当にモモが薬剤師で、研究の一部を任せられるなら正直助かる。
(ものは試し、か…。)
失敗しても薬草がひとつ枯れるだけ。
「なら、やってみろ。」
ローの言葉にモモは力強く頷き、土を入れ替えるべく早々に部屋を出て行った。
モモに任せてみたのは気まぐれだった。
上手くいけば儲けもの、程度の。
しかし数時間後、モモは再度ローの部屋を訪れ、鉢植えを差し出した。
鉢植えの中には先ほどの薬草が見違えるほど瑞々しく元気を取り戻していた。
たった数時間で薬草を復活させたモモに素直に驚いた。
「お前、何をしたんだ。」
モモは達成感でにっこりと笑った。
この瞬間、ローの中でモモを見る目が大きく変わった。
(俺は思ったより、いい拾いものをしたようだ。)