第3章 ハートの海賊団
(わ…、本だらけ…。)
ローの船長室は、書斎かと見間違うほど本で溢れていた。
(これ、嵐の時とかに崩れたりしないのかな…。)
壁に並んだ本棚にはビッシリと本が詰まり、床にもいくつか本のタワーが出来ている。
そのほとんどが医学書だ。
(いいな…。)
モモとて薬剤師。
貴重な医学書は喉から手が出るほど読みたい。
さしずめここは宝の山だ。
船長室の最奥にあるデスク。
ここがローの研究所のようなものだ。
ノック音にも気がつかなかったローは小ぶりな鉢植えを手に、ああでもない、こうでもないと呟いていた。
(あら、アレって。)
鉢植えにはモモもよく知る薬草が植えられていた。
消毒・血止めに効果がある薬草だ。
つい先日まで住んでいた家の庭でもたくさん育てていた。
(でもなんか、ずいぶん萎れてるわね。)
くたびれた薬草は萎びていて元気がない。
(…と、覗き見してる場合じゃなかった。)
うっかり自分の目的を忘れるところだった。
トントンとローの肩を叩く。
「…!」
突然叩かれた肩に驚き、ローは勢いよくこちらを振り向く。
「なんだ、お前か。なんの用だ。」
モモは手に持った食事を掲げて見せる。
「ああ、もうそんな時間か。悪いな。」
ローは食事を受け取ると鉢植えをデスクの端によけて置いた。
「ん…美味い。」
良かった。
これで任務完了だ。
大事な研究の邪魔をしてはいけないと去ろうとするが、萎れた薬草がどうにも気になった。
クイクイ
ローの服を引っ張った。
「…あ?」
(その薬草はどうしたの?)
鉢植えを指差す。
「ああ、ソレか。使い勝手がいい薬草だから、船内でも育てられねェかと思ったが、なかなか上手くいかねェな。」
(え…。)
そんなことない。この薬草はとても育てやすい。
日当たりの悪い場所でも逞しく育ってくれる。
ヒョイと鉢植えを手に取り様子を見る。
「オイ、勝手に触るな。」
ローが非難したが耳に入らない。
(おかしいな、どうしてだろう。……あ、もしかして。)
モモは鉢植えの土に指を突っ込んだ。
「…オイ、何してる!」
ローの声に怒気が混じる。
構わず土をひと摘まみすると、迷わず口に含んだ。