第18章 生まれる絆と繋がる命
それから、さらに数十年が経ったある日、とある植物学者がこの島に来た。
そして島の人々にこう言ったのだ。
「この樹は、世界樹の一部だ。世界樹には“世界樹の雫”と呼ばれる蜜があって、その蜜を舐めると身体が若返り、永遠の命が手に入る。」
その学者の話を聞いたとき、ユグドラシルは肝を冷やした。
なぜなら、それは本当の話だったから。
しかし、その蜜を奪われれば自分は枯れてしまう。
ことの真偽を確かめに来た人間のひとりに、そう説明した。
あの時の自分は、その事実を言えば、島の人間は誰も奪いに来ないと信じていたから。
自分を殺してまで、奪いにくるはずがない。
そう信じていた--。
しかし、その考えは甘く愚かなものだった。
その夜、この島に住む人間たちは、武器を手にユグドラシルを取り囲んだのだ。
「“世界樹の雫”を渡せ。さもなければ、お前の体に火をつけてやるぞ。」
そう言って、彼らは自分を脅したのだ。
昨日まで、神と崇めていたはずの自分を。
まずユグドラシルに最初に刃を向けたのは、植物学者。
斧を振り回し、自分を叩き切ろうとしていた。
みんなを惑わした怒りと、本当に斬り殺されるのではないかという恐怖に、ユグドラシルはひと突きで学者を殺した。
それがその後の地獄の始まり…。
学者を殺したことで、島の人々にとって自分はいつの間にか“世界樹の雫”を独り占めする悪者に変貌した。
昨日まで御神木と崇めてくれた人間はひとりもおらず、悪魔の樹と罵り始める。
「悪魔の樹を燃やせ! 世界樹の雫を手に入れて、永遠の命を!」
耳を疑った。
彼らは本当に、昨日まで苦楽を共にした人間なのだろうか。
欲望にまみれた人間の目。
ユグドラシルには彼らの方こそ、悪魔に思えた。
武器を、火を手に攻め寄る彼らの姿に心がスッと冷えた。
自分が愚かだったのだ。
今まで、どうして彼らと共に生きれると思ったのだろうか。