第17章 巨大樹
「だからって、あんな意地悪しなくてもいいじゃない!」
「……フン。」
エースに口移しで蜜を飲ませたのはモモだというのに、ローはまるで聞いてはくれない。
「エース、ごめんなさい。」
「イヤ、別にお前ェが謝ることじゃねぇだろ。…というか、ずいぶんと噂と違ぇな。」
もっと冷酷非道な男だと聞いていたのに。
拗ねるように顔を背けた彼は、とてもそのような男に見えない。
「ねぇ、それでアレはなんなの…。」
ボコリと浮き出た人面樹。
なんと恐ろしいことか、まるでオバケにしか見えない。
「あァ、今回の毒拡散事件と仲間誘拐事件の犯人だとよ。確か名前は…。」
「ユグドラシルじゃ。」
老人のような顔をした巨大樹は厳かに名乗った。
「ユグドラシル…。世界樹ですって?」
「ほう、娘。知っておるのか。」
ユグドラシル。
それは伝説の世界樹の名前。
「まさか、あなたが世界樹だとでも言うの?」
「左様。ワシは世界樹、ユグドラシルじゃ。」
そんな…。
伝説の世界樹が、こんな人食いの樹だったなんて。
「とは言っても、ワシは世界樹本体ではないがのぅ。」
「本体じゃない…? どういうことなの。」
「ワシは数百年前、この島に移植された世界樹の小枝じゃ。」
「世界樹の、小枝…。」
世界樹がこの世に実在していたことも驚きだが、ただの小枝が意志をもった巨大樹に変貌することに、息をのんだ。
「次はこちらの質問じゃ。小娘よ、おぬしはなぜ我が毒が効かん。なぜ小僧どもの毒を消せる?」
それはヒスイの蜜に解毒効果があったから。
けれどもモモはその言葉を飲み込んだ。
それをユグドラシルに教えることによって、ヒスイが狙われたりしたら大変だから。
「わたしは、薬剤師よ。毒を解毒できて当然でしょう?」
解毒できたのは嘘じゃない。
だから堂々と胸を張って言った。