第17章 巨大樹
「お前は“死の外科医 トラファルガー・ロー”か…?」
その悪名は、エースも知っている。
人体を自在に改造できる、オペオペの実の能力者だ。
しかし、ローはエースの問いを無視し、再び繰り返し言った。
「もう一度言う、てめェ、俺の女になにしやがった。」
俺の女…?
この場に女はひとりしかいない。
エースは、まさかという思いでモモを見た。
「ロー、“なにかした”のはエースじゃなくて…、むしろわたしが…。」
先ほどの“解毒”を見られていたのだ。
すごい怒気が伝わってくる。
でも、緊急事態だったわけだし、仕方ないと思う。
「モモ、お前の仲間ってのは、トラファルガー・ローのことだったのか。」
「そうよ。あれ、言ってなかった?」
まったく言っていない。
それがわかっていたら、もっと話は簡単だったのに!
「トラファルガー・ロー! お前ェは物体を自在に移動させられるんだろ? 俺の仲間をあのジジィから奪い返してくれねぇか。」
仲間さえ取り戻せれば、こんな人面樹など、とっとと灰にしてやれる。
しかし…。
「断る。」
エースの期待に反し、ローはバッサリとその提案を切り捨てた。
「な…ッ!?」
検討の余地すらなく即答したローに、エースはただ唖然とするしかない。
「貴様ら…、ワシを無視するでない!」
勝手にどんどん話を進めるローたちに、ユグドラシルの怒りが頂点に達した。
ローが切り落とした枝とは別の、新しい木々が伸び、無数の刃となって全員を襲う。
“シャンブルズ”
「きゃ…。」
パッとモモとローだけが瞬間的に、ユグドラシルの攻撃範囲外に移動した。
「うお…!」
ただひとりその場に残されたエースは、驚異的な瞬発力でなんとかその攻撃を躱した。
「ちょっとロー、どうしてエースも助けてあげないの!?」
「…アイツは敵だ。」
例えどんな理由があっても、モモの唇を奪った男など、助けてやる気にもならない。
むしろこの場で消してしまいたい。