第17章 巨大樹
「ワシの毒を中和させたじゃと…? ありえぬ、人間風情にそんなことが出来るはずがない。小娘、お主は何者じゃ。」
小枝から生まれたとはいっても、ユグドラシルは伝説の世界樹。
その自分から作られた毒が、そう易々と無効化されるなど考えられない。
この娘は、非力な人間を装っているが、この3人の中で最も厄介な存在に違いない。
「お主、何故にこの島へ入った。」
「なぜって…、たまたまログがこの島を指しただけよ。」
そうでなければ、この島にも、この森にも足を踏み入れることはなかっただろう。
しかし、モモの言葉をユグドラシルは信じない。
「いいや、嘘じゃ。お前はワシの蜜を奪いに来たのじゃろう。」
「蜜…?」
「惚けても無駄じゃ。お主はワシの蜜に、肉体を若返らせる効果があるのを知ってこの地に来たのであろう。」
肉体を若返らせる効果…。
「ほう…、そんな能力があるとはな。だが、俺たちはてめェの汚ねェ汁になんか興味はない。」
モモを危険視するユグドラシルの視線から守るようにローが立ちふさがる。
「人間とは強欲な生き物。そのようなことを言っても、ワシは騙されん。」
「ジジィ、さっき数百年前からここにいると言ったな。」
なにかを考えるようにエースが尋ねた。
「言ったな。ワシは遥か昔よりここにおる。」
この島には、いくつかの逸話がある。
その中にこんな話が…。
その昔、この島には多くの人が住んでいた。
豊かな森はたくさんの実りを生み、島は大いに栄えたが、ある夜、突然島の住人が一夜のうちに全員行方知れずになったのだ。
自然災害に襲われたわけでも、海賊の襲撃にあったわけでもない。
ただ、忽然と姿を消した。
「お前ェ、その住人たちをどうした?」
「それは、お主が考える通りじゃ。」
人面樹のしわくちゃな顔が、不気味に笑った。
「あの人間達は永遠の命が欲しいと言ったからのぅ。叶えてやったのじゃ、その願いを…。」
ボコリ、と頭上の木々が蠢いたと思ったら、バラバラとなにかが降ってきた。
「……きゃッ!」
それの正体を知ったとき、モモは思わずローにしがみついてしまった。
上から降ってきたのは、人間の骨だった。
それも、大量の…。