第17章 巨大樹
モモがエースの下へ駆けつけたとき、辺りは異様な光景に包まれていた。
ギシギシと音を立て、触手のように蠢く木々たち。
それに襲われ、倒れ伏すエース。
彼の顔からは、ガスマスクが外れている。
(いけない…ッ、あれじゃ毒素が回ってしまう。)
そう思ったら、考えるより先に身体が動いた。
ローに飲ませたものと同じ、ヒスイの蜜を口に含んだ。
「エース、しっかりして!」
傍に駆け寄り、躊躇いなく唇を合わせると、口内に蜜を流し込んだ。
「ぅ…ん…。…モモ?」
毒が回り始めてすぐに蜜を飲ませたから、エースが意識を取り戻すのに時間はかからなかった。
「…良かった。」
「お前、なんでここにいんだよ。」
外で待っているはずのモモの姿に、目を見張る。
「約束破ってごめんなさい。でも、やっぱりじっとしてられなくて。」
「おいおい、ここがどんだけ危ねぇかわかって…ッ」
というか、自分はなぜ意識を取り戻したのか…。
「娘、貴様…今なにをした…!」
あらぬ方向から聞こえる声に、モモはビクリと身体を跳ねさせ、頭上を見上げる。
大樹からボコリと浮き出た人面が、モモをものすごい形相で睨んでいる。
「しまった、コイツを忘れてた…。モモ、俺から離れんな--」
「き…ッ」
き…?
「きゃあぁああーーッ! オ、オバケーー!!」
絶叫とは、まさにこのことだろう。
隣にいたエースは、うっかりひっくり返りそうになった。
「なんじゃ、騒がしい小娘め!」
忌々しそうに唸ったユグドラシルは、刃物のように尖らせた根をモモへ向けた。
「危なねぇ…ッ」
咄嗟にエースはモモを庇う。
その時--。
“ROOM”
部屋全体に、ドームのようなサークルが張られた。
“アンピュテート”
目に見えぬ斬撃が飛び、襲い来る木々をバラバラにする。
「火拳屋…。てめェ、俺の女になにしやがった。」
顔を上げた先には、大太刀を掲げ、凶悪な顔で睨むハートの海賊団、船長 トラファルガー・ローの姿。