第17章 巨大樹
「…ぅ…。」
モモが歌を唄い終えたとき、今までピクリとも動かなかったローが微かに反応した。
「ロー!」
目を覚ましてくれたのかと期待したけど、彼の瞼は開かない。
毒素が身体を回りすぎてしまったのだ。
それに加えて、根と一体化していることも、モモの歌の効力を妨げている。
「どうしたらいいの…?」
声が枯れるまで、唄い続けようか。
いいや、咽せ返るほどの蜜臭が香っているのだ。
ここの毒素は外の比でないくらい、密度が濃い。
回復してもすぐに身体に毒素が巡ってしまう。
これでは唄うだけ無駄。
(あれ、そういえばわたし…、どうして…。)
どうして、毒が効かないのだろう。
エースは、この毒は即効性だと言った。
こんなに毒素のまみれた場所にいて、どうしてモモだけ無事なのだろう。
こう言ってはなんだが、モモはセイレーンの力を除いては、いたって平凡な人間だ。
ローやエースのように、化け物じみた力があるわけでもなく、身体が丈夫なわけでもない。
彼らでさえ影響する毒。
それが自分にだけ効かないなんて、どう考えてもおかしい。
なにか理由があるはず。
どうしてこんな簡単なことに気がつけなかったのか。
同じ船で、同じ生活をしている彼とわたしが違うところ…。
「きゅうぅー…。」
ヒスイが2人の様子を心配そうに見つめていた。
その瞬間、ハッと閃いた。
「そうよ、ヒスイ! あなただわ!」
「きゅい?」
ヒスイの花から出る蜜には、高い薬効がある。
それを調べるために、モモは何度かその蜜を口にしていた。
ヒスイの蜜には、解毒作用があるに違いない!
モモは常に持ち歩いている簡易薬箱からヒスイの蜜の入ったビンを取り出し、口に含んでそのままローに口づけた。
舌で唇をこじ開け、口移しで蜜を流し込む。
これが正解とは限らない。
でも、モモは自分の薬剤師としての勘を信じてる。
ロー、目を覚まして!