第17章 巨大樹
ガッ、ガッ…。
採取に使うための、小型のナイフを何度も樹の根に突き立てるけど、細かな傷しかつけられない。
こびりついた樹液を爪で取り除いたために、剥がれかけた爪先からは血が滲み出ていた。
「ロー、目を覚まして…!」
いつも、モモがどれだけ言ったって夜更かしを止めないくせに、こんなときばっかり眠って。
「ローのバカ…。」
ねえ、ロー。
ローはわたしを絶対に守るって言ってくれたけど、わたしだって、あなたを守りたいよ。
だって、あなたは言ってくれたじゃない。
『そうやってお前は、一緒に戦ってたんだな。お前なりの戦い方で。』
あなたと一緒に戦うよ。
だから、ロー。
帰ってきて、わたしのところに。
目を覚まして…。
大きく息を吸い込んだ。
「ロー、いい加減にしなさい。その窓は開けてはいけないと言っているだろう。」
「父様…!」
「ほら、勉強は終わりだ。もう、眠りなさい。」
父に引き剥がされて、ローは渋々窓から離れた。
「兄さま、ラミと一緒に寝よ!」
「…ああ。」
差し出された妹の手を取ろうとした、その時…。
『心の穴を埋めたくて、あなたの居場所を探した。』
え…?
『出会いと別れが繰り返し、わたしの隣を駆けていくよ。』
歌が聞こえる。
そう、窓の外から…。
『ダメな自分が悔しくて、強くなりたいと願った。
強くもなれない現実に、ただ目を瞑って耐えてた。』
誰だっただろうか。
本当はすごい力を持っているのに、足手まといだ、お荷物だと言って、自分に厳しすぎる人は。
辛いときに、辛いって言えなかった人は。
『君に、会いたいよ。』
『帰りたくなったよ、君が待つ船に。
その姿を見せてくれたなら、何度でも走っていくから。』
そう、帰りたい。
君が待つ船に。
『帰りたくなったよ、君が待つ船に。
話したいことがたくさんあるよ。聞いてくれたら、嬉しいな。』
そう、なんでもない話を幸せそうにする、君に会いたい。
ローは走り出した。
体当たりをする勢いで、窓を大きく開け放つ。
瞬間、ふわりと部屋に風が入り込む。
一緒に運ばれてきた、カモミールの香りと共に。