第17章 巨大樹
「お兄さま、早くおうちに帰ろう。」
「ああ。」
ラミと大好きな両親と共に、行き交う人ごみの中、ローは家路を歩く。
ふと、すれ違う女性の、キャラメル色の髪が目に入った。
ガシッ。
思わず女性のスカートを握りしめてしまった。
どうしてそんなことをしたのか、自分でもわからない。
「なぁに、坊や。」
振り向いた女性は、当然、知らない顔。
「…なんでもない。」
女性のスカートから手を離す。
どうして自分は今、あの人の瞳が金緑色をしていると思ったのだろうか。
「お兄さま、早くー!」
「ああ。わかってるよ、モモ。」
モモ…?
「なに言ってるの、お兄さま。わたし、ラミよ。」
「あ、ああ。そうだよな、なに言ってるんだろ。」
モモ…。
モモって、誰?
「…モモ。」
呟いてみたら、なぜだか胸が苦しくなった。
「…ロー?」
「きゅ?」
今、ローに呼ばれた気がした。
立ち上がって、エースが入っていった地下への入口を覗く。
「ヒスイ、やっぱりわたしも行くわ。」
「きゅい!?」
エースが行ってから、もうずいぶん経つのに、彼はまだ戻らない。
もしかしたら、中でなにかあったのかもしれない。
それに…。
「ローが、呼んでいる気がするの。」
気のせいかもしれない。
でも、もし本当に彼が呼んでいるのなら、どんな危険を侵してでも傍に行きたい。
「ヒスイ、わたし行くわ。あなたはここで待っていて。」
「きゅきゅ…ッ」
オロオロとモモの足元を動き回る。
エース、待ってるって言ったのに、約束破ってごめんなさい。
わたし、やっぱりあなたの弟に似ているのかも。
『向こう見ずで突っ走る。』
確かに言われた通りだったね。
向こう見ずでも、突っ走ってもいい。
ロー、あなたのもとに。
モモは躊躇わずに、樹の根の隙間へ飛び込んだ。
「きゅきゅー!」
慌ててヒスイもその後を追った。