第16章 炎の男
「もう。こんなときに、なにふざけてるの?」
「イヤ、大真面目だ。」
おや、これは勧誘というやつだろか。
「光栄だけど、わたしの船長は誰かの下につくような人じゃないの。」
そして自分も、彼以外の人の下へ行くなんて永遠にない。
「へぇ…、まァいいや。まだ時間はあるし。」
「冗談はここまでにして、本題よ。」
気を引き締めて、ピシャリと言った。
「フェロモンを森全体に振りまけるなら、本体はそうとう大きな生物だと思う。だから、ひとまず森の中心を目指しましょう。」
強者はたいてい森の中心に君臨するもの。
「なるほど、一理あるな。じゃ、急ぐか。俺の仲間も、お前の仲間も、いつまでも生きてるとは限りらねぇ。」
エースの言葉に、胸にゾワリと恐怖が広がった。
「…行きましょう。」
2人は森の中心を目指して走った。
「これは…。」
森の中心には、大樹とも呼べる巨大な樹がそびえていた。
「どうやら、この樹がこの森の頂点に君臨しているみたいね。」
「ああ。じゃあ、コイツが毒素を振り撒いている犯人だってのか。」
一見すると、ただの巨大樹のようだが…。
「きゅきゅ!」
急にヒスイがモモの髪を引っ張った。
「どうしたの、ヒスイ。…きゃあ!」
ヒスイが指差すところには、樹の根と一体化した白骨死体。
驚きと恐怖で、思わずエースの背中にしがみつく。
「…おっと。…こりゃあ、どうなってんだ。」
どう見たって、根元で力尽きて死んだ様子ではない。
樹に吸収されていると言った方が正しい。
「エ、エースの仲間…?」
「イヤ、コイツはもっと古い死体だ。」
もっと前にこの森に入り、餌食になったのだろう。
そうなると、ローもエースの仲間も、いずれはこうなるということか。
「ここに引き寄せられたなら、どこかにいるはずだ。探すぞ。」
「うん…!」
ロー、無事でいて…!