第16章 炎の男
「ホラ、食えよ。」
「ありがとう。でも、遠慮するわ。」
差し出された熊の肉をモモは受け取らなかった。
「なんだ、腹減ってねぇのか?」
「そういうわけじゃないけど、親友にクマがいるから、なんとなくね。」
外見は大きく違えど、ベポと同じ種族と思うと、食べる気にならない。
「親友がクマって…、寂しいヤツだなァ。」
「余計なお世話…。」
ちゃんとメルディアという人間の友達もいるのだが、話がどんどん脱線しそうなので黙っておく。
「それより、毒素のことなんだけど…。」
「もぐ…、なにかわかったのか?」
食べる手を止めないまま、エースがこちらを向く。
なんとも食い意地が張った男だ。
「うん。まず、甘い蜜のような香りからして、植物、もしくは虫が発するフェロモン系の毒だと思うの。」
食虫植物が虫をおびき寄せるために、発する香りのように。
「毒素は日暮れと同時に森全体を覆う。そうでしょう?」
「ああ。ガスマスクがないなら、夜はむやみやたらに動き回らねぇ方がいい。」
なぜだかモモには毒が効かないようだが、確証があるわけじゃない。
「でも、見た限り獣たちはその影響を受けていないわ。」
「…言われてみれば。」
この熊を含め、森には多くの獣たちが生息しているけど、彼らが毒に侵されている様子はない。
「つまり、これは人間にしか作用しない毒ってことになる。」
「人間にしか効かねぇ毒…!?」
言われてみれば納得できるが、どの仮説もエースが思いもしないこと。
「驚いたな…。この短時間でよくそこまでわかるもんだ。」
「言ったでしょう、わたしは薬剤師なのよ。」
これくらいわかって当然だ。
「イヤ、それにしたって…。」
行動力といい、判断力といい、モモの力量を侮っていた。
「なァ、モモ。この件が解決したら、お前、ウチに来ねぇか?」
「え?」
「白ひげ海賊団に…、俺のところにに来いよ。もちろん、仲間も一緒にさ。」
頭で考えるよりも先に、そんな言葉が口を出た。