第3章 ハートの海賊団
自室から出てキッチンに上がると、仲間たちのやけに騒がしい声が聞こえた。
「もう、最っ高!!モモ、キミは天使が!?」
「すっげー美味いっスね!今朝のメシがクソみたいに思えるぜ!」
「モグモグモグ…。」
「…何をしてる。」
キッチンには興奮覚めやらぬ2人と、ひたすら食らうクマ。
「あ、船長! 聞いてください!モモ、すっげぇ料理うまいっス!」
「コレ、今朝の魚ですよ? あんなマズかったのに、全然ちげえ!」
魚のフライを頬張りながら、2人は涙を流さんばかりに興奮している。
「あまり動き回るな、と言ったよな。」
ジロリとキッチンに立つモモを見た。
モモが申し訳なさそうに、しょんぼりした。
「あー、ごめんキャプテン。ボクがいいよって言ったんだ。」
「なに?」
「モモがさ、じっとしてるだけじゃ辛いから何か手伝わせてって言うから、つい…。」
庇おうとするベポに慌てて手を振って、モモは「自分が無理にお願いした」とアピールした。
「傷はまだ痛むのか。」
ふるふると首を振る。
なら、とローは空いた椅子に腰を下ろした。
「別に好きにすりゃいい。ただし、傷が開くようなことはするんじゃねェぞ。」
モモはパッと顔を輝かせ、嬉しそうに笑った。
彼女の笑顔を見たのは初めてだ。
(なんだ…、暗いやつかと思ったが笑うと--)
「かっわいぃ~。」
ローの隣で気持ちを代弁するかのように、ペンギンがでれっとした。
そのタイミングにムカつき、後頭部をスパンと叩いた。
「……?」
小首を傾げつつ、ローの前に食事を置いた。
タルタルを添えた魚のフライに、ひよこ豆のスープ。
この船の船長はパンが嫌いとのことなので、主食はおにぎりにした。具は昆布の佃煮。
今朝の焼き魚は本当にマズかった。
あの魚の味がたいして変わるとは思えないが…。
サクリとフライをひと口頬張った。
「…美味い。」
モモはホッと息をつき、頬を桃色に染めた。
(良かった、気に入ってもらえたみたい。)
人に料理を振る舞うのは初めてだ。
薬作りもそうだが、人に喜んでもらえることはとても嬉しい。
あっという間に消えていく料理に、モモは味わったことのない喜びと充実感を感じた。