第16章 炎の男
2人が落下するスピードは、どんどん加速していく。
あと数秒のうちに地面に激突してしまう。
(このままじゃ、死--)
ああ、天国のお母さんとお父さんが手を振ってる…。
ほんのちょっとだけ、死を覚悟したその時--。
“火拳”
エースの右腕が突如として炎に変わり、地面に叩きつけられた。
ゴォーッという凄まじい炎と熱風が2人の落下を緩やかにする。
モモを抱えたエースは、フワリと着地した。
「な? 大丈夫だったろ。」
「…なに、今の。」
「俺ァ、“メラメラの実”を食った全身炎人間でね。」
出た、悪魔の実!
つまりエースもローと同じく、化け物級の強さを持っているということだ。
「あぁ…、そうなの…。」
つまり、飛び降りたときには、なにかしらの策があったってことで。
でも…。
「…ヒスイ。」
「きゅきゅ!」
心得た! とばかりに、ヒスイが赤い葉をパックンチョ型に変えて、エースにかじりついた。
「いでーー! なにすんだよ!」
「それならそうと言って! もうッ、死ぬかと思ったんだから!」
半泣きの状況で抗議してやった。
ローだって、いくらなんでもこんな乱暴なやり方はしない。
「大袈裟だな…。この高さじゃ、普通に落ちたって死にゃしねぇだろ。」
「普通、死にます!」
涙目のまま、ギッと睨みつけた。
潤んだ金緑の瞳に睨み上げられて、なにを思ったのかエースはグッと言葉を飲み込んでしまい、あーあー…と頭を掻いた。
「俺が悪かったよ。だからそんな目で睨むな。…ハァ、ガキにゃ刺激が強すぎたか。」
ガキ?
聞き捨てならない。
「…エース、いくつ?」
「17だけど…。」
「わたしも17歳よ。」
2人は同い年だった。
その事実に、エースはギョッとする。
「ウソだろ? お前、ずいぶん軽いから…。もっと食えよ、発育悪ィぞ。」
別に『どこの』とは言われてないが、その言葉はモモのコンプレックスをグサリと串刺しにするには十分だった。
「……ヒスイッ」
「きゅきゅ!」
再び、エースの腕に歯形がつくのは、もはや天罰だと言っていいと思う。