第16章 炎の男
「あ、あれは…。火炎花だわ!」
珍しい花を発見し、モモはローの手をパッと離した。
辺りはだいぶ霧が濃くなっていて、ドジな彼女はすぐに転びそうだ。
「オイ、離れ--」
「お兄さま。」
懐かしい声がした。
忘れられない、守るべき幼い少女の声。
「ラミ…?」
ローの呼びかけに少女は、はにかむように笑った。
そばかすがチャームポイントで、ツインテールがよく似合う。
記憶のままの、妹。
「お祭り行こうよ!」
「祭り…? そんなの…。」
どこでやっている、と尋ねようとしたら、どこからか音楽が聞こえてきた。
祭りを知らせるファンファーレ。
「行こ、アイス食べよう!」
そう言ってラミは駆け出した。
「…オイ、待て!」
その後をローは追いかけた。
大切な大切な、愛しい少女を残して。
「ねえ、エース。」
「あん?」
「今さらだけど、どうやってここから降りるの?」
モモとエースがいる場所は、高さ数十メートルはある樹の上。
どうやって登って来たのかも疑問だが、それよりどうやって降りるかが今のモモには大問題だ。
(まさか、普通に降りるっていわないよね。)
高いところは苦手じゃない。
だけど、モモの運動神経からして、地面を踏みしめるより先に、足を踏み外して真っ逆さまに落ちるのが関の山だ。
タラリと冷や汗が垂れる。
そんなモモの様子を見て、エースはニカリと笑った。
「そんな死にそうな顔して心配しなくても、ちゃんと俺が降ろしてやるよ。」
「どうやって?」
まさか背負ってなんて言わないだろう。
「こうやって!」
「え、ちょ…--」
エースはガバリとモモを横抱きにすると、ヒョイと樹から飛び降りた。
「ひ…ッ、きゃーー!!」
胃が浮くような浮遊感に、モモは無意識のうちにエースに抱きついた。