第16章 炎の男
「ところでモモ、身体はなんともないのか?」
「身体? 特にはなんとも…。」
あえて言うなら、歩き詰めだった足が痛い。
「へえ…。そりゃ、おかしいな…。」
「なにがおかしいの?」
その言い方じゃ、まるで身体が不調じゃないと変みたいだ。
「気づかなかったか? この島にゃ、日が暮れてくると有毒なガスみたいなものが充満してくるんだよ。」
「有毒なガス…!?」
だから彼は出会ったとき、あんなガスマスクを装着していたのか。
「そんな、全然…。あ、もしかして、あの甘い香りがそうだったのかな。」
「甘い香り?」
「うん。蜜みたいな香りが…。」
「たぶんソレだな。俺は仲間の音信不通はソレが原因だと思ってる。」
だとしたら、ローも…。
不安が胸を突く。
「…って、じゃあわたし、すでにガスに侵されてるのかな!?」
今のところ、どこにも不調はないけど、もうすでに毒素は溜まっているのだろうか。
「イヤ…、俺の調べたところじゃ、毒は即効性で幻覚を伴うらしい。なんでかはわからねぇが、あんたには効かねぇみたいだな。」
ひとまずホッとした。
モモは自分自身を癒やすことは出来ないのだ。
「その毒って、死んじゃったりするの?」
「さァな、俺もまだ調べてる途中だ。とりあえず毒は上空に上がって来ねぇから、朝までここで待とうぜ。」
だからこんな樹の上にいたのか。
「エース、その毒のこと、わたしも一緒に調べてもいい?」
「構わねぇけど、危険だぜ?」
どのみち、ローを探さなくてはいけないのだ。
ならば彼と一緒にいた方が効率がいい。
「大丈夫。戦力にはならないけど、わたしは薬剤師よ。少しは役に立てると思うの。」
「確かにな。じゃ、よろしく頼む。」
「ありがとう。」
まずは朝まで待たなくては。
ほんの少し探検するはずが、とんでもないことになってしまった。
「ハァ、夢だったら良かったのに…。というか、今これがわたしの夢だったらどうしよう。」
隣にいるエースという青年は、実在しているのだろうか。
確認のために、ペタリとその胸に触ってみる。
ドクン、ドクン、と鼓動を感じる。
「ああ、良かった。本物っぽい。」
「…あんた、よく無防備だって言われないか?」
若干心配そうなエースの問いに、モモはキョトンと首を傾げた。