第15章 オバケの森
「シュルルル…。」
無視すんなや! とばかりに大蛇が怒り、大きく口を開けて飛びかかってくる。
「シャーーッ」
「きゅい!」
ヒスイが触角の赤い葉をサーベル状に変形させて、ズパンと蛇の身体を真っ二つに切り裂いた。
ドサドサ…とモモの背後で蛇の亡骸が崩れ落ちるが、当の本人は気づかない。
「きゅいー…。」
まったく、世話の焼ける主人である。
「ふぅ…、ちょっと休憩しましょう。」
どれくらい歩いたことか。
歩きくたびれて、足が痛い。
「ハァ、ローったら、どこにいるのかしら。」
彼のことだから、心配はいらないだろうけど…。
「むしろ、わたしたちが船に帰れるかを心配した方がよさそうね。」
森の中はだいぶ暗くなってきた。
もうすぐ日が落ちるのだろう。
真っ暗になる前に、モモは薪を集め、持っていたマッチで火をおこした。
今日はここで一晩明かすことになるかもしれない。
「きゅぅ…。」
「どうしたの、ヒスイ。お腹すいたの?」
モモはカバンからおにぎりをひとつ取り出して、半分に割り、片方をヒスイに差し出した。
ヒスイは嬉しそうな声を出し、それにかぶりつく。
「…そういえば、さっきから甘い香りがするわね。」
なにかの蜜の香りだろうか。
思い出してみれば、森に入ったときから、ずっと漂っていた気がする。
「きゅ…。」
それまでマッタリとしていたヒスイが、急に立ち上がり、触角をピンと立てた。
「どうしたの?」
「きゅきゅ!」
なにかに気づいたように、森の暗がりを指差した。
ザッ、ザッ、ザッ…。
シュコー、シュコー。
(足音…? それと…、これは呼吸音。)
徐々にこちらへ近付いてくる。
「きゅ…!」
「だ、大丈夫よ…ヒスイ。オバケは、気のせい…だから。」
警戒するヒスイに、むしろ自分に言い聞かせるようにモモは言った。
そういう問題ではない、と呆れた視線を送られたのは、きっと気のせいだと思う。