第15章 オバケの森
「…今、なにしたの?」
隣にいたモモにも、ゾワゾワが伝わってきた。
「覇気で雑魚どもを追い払っただけだ。」
「覇気?」
なんでも、ローくらい武勇に優れた化け物…ではなく人は、覇気というオーラのようなものを纏わせて闘うことができるらしい。
覇気使いじゃない人が、まともに覇気を受ければ意識さえも保っていられない。
「便利な力ね。だったら無敵じゃない。」
「いや…、この海には覇気使いくらい星の数ほどいるさ。」
「そうかなぁ…。」
この世にローより強い人がいるなんて、想像できないけど。
「お前は世界を知らなすぎるんだよ。」
そうかもしれないけど。
でもいつだって、モモが想い描く最強の人は、トラファルガー・ローという男なのだ。
ローが周辺の生物を追い払ってくれたおかげで、やっとモモにも辺りを見回す余裕が出てきた。
「ロー、見て。団扇草よ。」
植物図鑑に載っていた、団扇やオールの代わりとして利用できる便利な植物だ。
「すごい、本物が見られるなんて。なにか持ち帰れる種とかないかなぁ。」
珍しい植物にテンションが上がってきたのか、いつもの調子を取り戻してきた。
「せっかく怖い思いをして上陸したんだもの。ただでは帰れないわ。」
「お前、そういうところはしっかりしてるよな。」
当然だ。
知識は武器なんだから、たくさん勉強しないと。
「きゅきゅ!」
突然、肩に乗ったヒスイがすぐ近くの木の根を指差した。
「あ、あれは…。」
木の根にちんまりと花咲く赤い植物。
「火炎花だわ!」
唇のような蕾から炎を吹くという、珍しい花。
こんなところに咲いているなんて…!
パッとローの手を放し、そこに跪いた。
慎重に根っこごと掘り出し、持参したビンに入れる。
うまくいけば船で育てられるかもしれない。
「ロー、この花--」
思わぬ収穫に、笑顔のまま後ろを振り返った。
「ロー?」
振り向いた先に、ローの姿はなかった。